世界を敵にまわしても



「じゃあ、あたし帰るからね」

「早よ行け」

「じゃあね~」


やっぱり仲良いのかも。普通に友達に見えるもんな。


生徒の姿がまばらになった廊下に出ると、椿と菊池さんの会話が遠ざかっていき、あたしは3階へと向かう。


約2週間ぶりか……。


先生と連絡は取っていたけど、長電話も長時間メールも出来たわけではない。


どれも今日の学校はどうだったとか、今何してるとか、家とか家族の事ばかりで。肝心な話題を出すには躊躇われた。


――先生には、聞きたいことが2つある。


階段を上り切ると、クラスのないB棟の3階は静寂に包まれていた。


一直線の廊下を進んだ最奥に、音楽室のドアがあたしを待ち構えている。


多分、先生はまだ来てない。


閉まったドアに手を掛けると簡単に開くのは、先生が鍵を開けておいてくれるからだ。


静かにドアを開けて音楽室に入ると、風に揺れる薄黄色のカーテンが目に入った。


……窓は閉めてた方がいいんじゃないの。


そう思いながら横目でカーテンを見つつ、準備室の方へ歩みを寄せる。取っ手に手を掛けたけれど、ドアが開く事はなかった。


「だよね」


さすがに準備室に1人で居るとこを誰かに見られたら、不信がられる。


……その辺りのこと分かってるなら、大丈夫そうだけどな。