世界を敵にまわしても



「様子が変だったってことだべ?」

「うん。でも、音楽教師だし、やっぱピアノ弾けないのってキツいんだろうなって」

「あー。まぁ、だろうな」


昨日、あたしは半信半疑のまま一歩後ろに下がって、「また明日」って笑い返したら「会えて良かった」って微笑まれて……。


それであたしは先生に背を向けて、先生も車に乗った。


「……話してくれたからいいんだけど。何か……心配っていうか」


先生の過去を知れたのに、今になって違うような気になる。


踏み込んだはずなのに、踏み込んだ気がしないとでも言うのか。


「モヤモヤ?」

「あぁ、それ。……今日そればっかり」


椿の言葉に頷きながら、あたしは深い溜め息を吐いた。


「でも今日の朝霧、別に普通だったじゃん」

「そうなんだよ」

「「……」」


あたしと椿はお互い目を合わせて口を噤み、どちらからともなく視線を逸らした。


言わなくても、お互いの思ったことが手に取るように分かってしまったから。


……昨日の今日で普通な先生は、大人ぶってると言うか……平気なフリをしてるんだろうか。


いや、でも。あたしが同じ立場だったらそうすると思うし。


そんな深く考えることでもないんじゃない?