世界を敵にまわしても



「手に欠陥あんじゃね?」


「……は?」


立てた膝に頬杖をつく椿はあたしの瞳を真っ直ぐ見詰めてきて、「手」と聞こえたのにもう一度言う。


「いや……何で?」

「ピアノ途中でつまづくし、さっきも答案落とすし」


……それは、先生はピアノが下手で、ドジ?だからじゃないのか。


「欠陥って言うほどのこと?」


素直にそう思ったから言ったのに、何か黒いモヤモヤしたものが胸に渦巻く。


さっき、先生が珍しくぎこちない笑顔見せたからだろうか。


「ちげーって。左手なんだよ、ピアノミスる時も、さっき答案落とした時も」

「……そうなの?」


そんなこと、ちっとも気付かなかった。


「ちょっと黒沢ぁ。アンタそれパンツ見えるって! あ、ワザとぉ?」

「はん? テメーみたいにきたねぇの履いてないからいいんだよ」

「はぁー!? 汚くないんですけど!」

「つかパンツで騒ぐな。ガキじゃあるまいし」

「アンタほんとムカつく!」


菊池さんと椿が言い争う中で、あたしは今までのこと思い出していた。


手に欠陥って……でも普通に運転……ほとんど右手でしてた。


あたしを抱き寄せた時も手に触れた時も、ほぼ右手だった気がするけど……。


アレは? 指先だけ出る黒い手袋。


でも冷え症だって……デートの時はどうだっけ?カットソーの袖で掌は隠れてた。


「……」


先生。ピアノが下手なんじゃなくて、手に欠陥があるから弾けないの――…?