「1位じゃなくてもいいんだぞ」
「……」
思いがけない言葉だった。
頑張り過ぎるなとか、今まで干渉しなくて申し訳ないとか、言葉の裏に色んな感情が隠されているような気がして。
あたしは持っていた茶碗をソッと置いた。
「今さら順位落とすのも悔しいかな」
困ったように笑うと、お父さんは何か言い掛けた口を閉じて「そうか」とだけ言って目を伏せる。
「うん……でも、ありがとう」
気遣ってくれて。その言葉を隠して微笑むと、不自然な咳払いを母がした。
見ると、母もあたしを見ていて、言いようのない感情が込み上げる。
「頑張りなさい」
確かに、そう言った。あの、あたしに無関心だった母が。
1位じゃなくてもいい。でも頑張りなさい。そんな言葉も聞こえた気がして。
喉奥と目の奥に込み上げる熱を我慢して、あたしは出来る限りの笑顔を見せた。
「頑張る」
一言が精一杯で、あたしは浮かんだ涙をごまかすように冷えたお茶を一気に飲んだ。
頑張る。頑張れる。
絶対に1位を取って、今度こそ成績表を母に見せるんだ。そしたら、“頑張ったわね”って言ってくれるだろうか。
もしそんな奇跡に近い事を言われたら、きっと泣いてしまいそうだけど。
本当にそんなことが起こったら、まっ先に先生に伝えよう。
あたしが嬉しく思ったことは、先生にも喜んでほしい。
わがままかな? だけど、きっと、先生なら喜んでくれる。
そう信じて、疑わなかった。



