世界を敵にまわしても



「大丈夫、見つかるよ」

「……夢?」

「そう。高校で見つかるかもしれないし、大学に行けば見つかるかもしれない」


先生は優しく微笑んで、あたしはただ言葉に耳を済ませた。


よく通る、澄んだ声。先生の声はメロディーみたいで、すぐ耳に馴染む。


「見つけたら、諦めちゃダメだよ。叶いそうにないって思わないで、出来るって信じて、叶えて」

「……うん」


何で、そんな事を言うんだろう。またお節介かな。教師ってそういうもの?


それとも先生が、ピアノ下手でも頑張って教師になったからかな。


でも先生がそうだったなら、ものすごく頑張ったなら、あたしもそうで在りたいと思う。


「夢見つかったら、先生に言うよ」

「それは嬉しいな」


あたしが笑うと、先生もつられて微笑む。


――あぁ、まただ。


ふわふわした気持ちで胸がいっぱいになる。これって、幸せボケとかそういう類のもの?


……ちょっとヤダ。


「あ、そういえば」

「何?」


先生は思い出したようにカレンダーを見て、あたしに振り返る。


「来週から試験だね」

「……」

「あれ? 忘れてた? ……驚いたな。珍しいこともあるんだね」


わ、忘れてたわけじゃない。範囲だってバッチリだし。


でもここ最近、勉強という文字が完全に頭の中から抜けていた。



ずっと先生の事考えてる場合じゃない!!