世界を敵にまわしても



「ピアノ苦手で音楽の先生になれるもんなの?」


放課後の音楽室。本でも読むかのようにファイルに落としていた視線を、先生はあたしに向けた。


「これでも音大卒なんだけどね」

「え! そうだったんだ……」


……あぁでも、普通そうなのかな。音大っていっても、音楽の教員免許取るカリキュラムぐらいあるよね。


兄の大学でも、確か司書か何かの資格が取れる授業があるって聞いたことがある。


まぁ、兄に限らずあたしも妹も完全な理系だけど。


「じゃあ先生は音楽教師になりたかったんだ」

「んー? まぁ、そういう事になるね」


今って臨時だけよね?……そこは触れないでおこう。


頬杖をつきながら再びファイルに視線を落とした先生を見ていると、「美月は?」と問われる。


「何が?」

「将来、何になりたいの?」


将来? 進路のことかな。それとも、その先?


「大学には行くよ」

「だろうね。その後は?」


就職。


……何になるんだろう。これと言って自分に夢が無いことに気付く。


「んー……公務員?」

「ははっ! 言うと思った」


先生は閉じたファイルを机に置いて、控えめに口を開いた。