世界を敵にまわしても



今の内によく見ておこう。


ピアノを弾く先生に視線を注いでいると、楽しそうだなと思った。


そりゃ音楽の先生なんだから、ピアノ弾くのは好きだろうけど……。何て言うか、音が跳ねて飛んで、凄く楽しそう。


「フーン」


隣でそう呟いた椿も、同じように感じてるんだろうか。


先生の表情を目に焼き付けておこうと凝視していると、不意に先生の表情が変わった。それから少し遅れて、音が外れて消える。


「……ちょ、えぇ!? ちょっと奏ちゃん! しっかり!」

「あはは、ドンマーイ」


先生が間違って演奏が止まったんだと、毎回授業で曲を聴いてたあたし達にはすぐ分かった。


「……ゴメン。慣れない事はするもんじゃないね」

「途中まで良かったって! いやマジで!」

「あ、宮本弾ける? 弾けるよね」

「は!? 俺!? ていうか何その弾けよって空気!」

「えーっ、晴ってピアノまで弾けんの!?」


クラスメイトが騒ぎだし、その流れで晴は渋々手招きしながら微笑む先生の元へ行く。


「もーっ! 今回だけにしろよ! あと成績上げて!」

「考えとく」


先生は晴に楽譜か何かの説明をして、晴は頷くとすぐに弾いてみせた。


その様子を後ろで見ていた先生は満足そうに微笑んで、クラスメイトも「すげー!」なんて言いながら騒いでいる。


……先生って本当にピアノダメなんだな……。