世界を敵にまわしても



「そういう美月が好きだよ」


とろけそうに細めた黒目の艶の美しさに、目を奪われる。


「俺が今好きなのは、美月だから。大丈夫」


何もかも了解しているといった風な、微笑みを含んだ目つきにあたしは声さえも奪われた。


……そうやって、いつも先回りする。


あたしが不機嫌になった理由も分かって。胸の奥を痛くするほど感じた不安にも気付いて。


全部取り除く。欠片も残さず、傷痕も失くしてしまうように愛の言葉を囁く。


好きだと思った。

心の奥底から、叫びたい程好きだと感じた。



「……あたしの初恋の話、してあげる」

「ん? うん、知りたい」


いつかのように、想いが通じ合った時のように、先生はあたしの手に指を絡ませる。


あたしはそれに応えて、キュッと先生の手を握った。


「……やっぱり話さない」

「え? 何で?」

「話さなくても分かるでしょ」


先生は少し眉を寄せて、考えてる隙に唇を震わせた。



「先生だよ。あたしの初恋」


正真正銘、嘘偽りない真実。


「知ってたでしょ?」


先生はぱちくりと目を丸くさせて、すぐに弛んだ口元に長い指を当てる。静かな笑い方とも、悪戯っぽい笑顔とも違う。


「うん、知ってたかも」


屈託のないもので、嬉しそうな照れくさそうな、零れ落ちるような笑顔だった。