世界を敵にまわしても



――つもりで振りあげた手が、車の天井に思い切りぶつかった。


ガツッと硬質な音と手に走った痛みに、声にならない悲鳴を上げる。


右手の甲を左手で押さえて、あまりの痛さに頭を下げると先生の「え?」という声。


「え? 何? ……もしかしてぶつけた? 天井に」


尻声に笑いが含まれてるんですけど!?


「ちょ、見せて。大丈夫?」

「大丈夫じゃないっ!」


バッと半泣きの顔を上げると先生は目を丸くして、フッと鼻音の笑いを立てる。


「そうだね。凄い音したし」


ソッとあたしの左手を退けて右手を掴む先生の手は、言いようなく綺麗だと思った。


手の甲も筋も指先も爪の形も、危うい程繊細で見惚れてしまう。


「赤くなってる」

「……痛い」

「大丈夫、折れてないよ」


こんな事で折れたら困る。


「そんなにヤワじゃない」

「ははっ、そうだね」


そうだよ。そんなにヤワじゃない。


でも痛い。
胸の奥が火傷したみたいにヒリヒリする。


「意地っ張りで、素直じゃないもんね」

「……はい?」

「嘘吐くのが下手で、頑固で、勝気だし」


ちょ、ちょっと!何でそんな話になるの!


先生は伏せていた睫毛を瞬かせて、流れるようにあたしを見上げた。