世界を敵にまわしても



「大学が一緒だったから、お互い進む先は知ってたけど。別れてからは一度も話さなかった。……多分、嫌な別れ方だったと思うよ」


先生はそこまで話すと、やっとあたしの顔を見た。いつも通りに微笑んで、でもどこか苦そうな顔をして。


「……引きずった?」

「あれ? まだ続く?」


そう言うのは苦い過去で、あまり思い出したくない恋愛だからだろうか。


ジッと見つめると先生は堪忍したように眉を下げて、憂を持った眼の中に訳ありそうな微笑を含ませた。


「まぁ、フラレたのは俺だから。少しも引きずってないって言ったら嘘になるね」

「ふぅん」


自分でも驚くほど、不機嫌な声だった。


それに気付いても取りつくろう気にはなれなくて、海に視線を移す。


無言の空気が流れて、あたしはいた堪れなくなってきた。


チラリと盗み見るように隣を見ると、先生は窓の外を見ていて表情が分からない。


「……は?」


表情が分からなくても、小刻みに震える肩が笑っているんだと教えてくれた。


「何笑ってるの!?」


ここで!?ここでも笑えるのかこの人!


1人不機嫌になったあたしがバカみたいで、渾身の力を込めて先生の背中を叩く。