「こんな人が好きだったとか、ないの?」
「いや……何でいきなりそんな話?」
「知りたいから」
「……」
先生の眼はいつも不思議だ。表情がころころ変わるみたいに、瞬間的にガラリと変わる。
雰囲気というか、眼差しというか。感情のよく映ずる眼をしてるんだ。
それが時に、瞳の色さえ変わったような気にさせる。
「……先生が先に教えて」
アクセルを踏み込まれた車がゆっくり発進するように、あたしも静かに言った。
あたしだって、先生の昔の恋愛を聞きたい。
「……俺かぁ」
「先生が言わないと教えない」
なんて、何もないのに。先生の話を先に聞いたら余計言いにくくなるのに。
――先生が今まで、恋愛してこなかったはずない。
「んー……初めて付き合ったのは中2だったかな。自然消滅して、高1の時も別の子と付き合ったけど、それもすぐ別れちゃって」
はしょり過ぎだよね。
「……1番長かったのは?」
それを聞いた方が早いと思った。先生が24年間生きてきて、1番長く関係を持った人。
自分で聞いといて、鼓動が速くなる。
ぼんやりと眺めていた道路の先に海が見えた事で、あたしはその一点だけを見つめた。



