世界を敵にまわしても



「あ、この先に海なかったっけ?」

「あるけど……先生、海はまだ寒いよ」

「見るだけなら寒くないよ」

それもそうか。


「海なんて久しぶりだなー」


あたしもだ。


ていうより、小さい頃家族で行った気がするけど、その記憶があまりにもおぼろげで思い出としては語れない。



「あ、そうだ。聞きたいことあったんだよね」


海へ向かうまでの間、会話の途中で先生がそんなことを言った。


あたしは首を傾げて、「何?」と聞く。


すると先生は一瞬だけあたしを見て、前方に視線を戻してから口を開いた。


「どんな感じだったのかなーって。昔の恋愛?」

「は!?」


あまりにも唐突な話題に、あたしは静かな車内で声を張り上げる。


いいいいきなり何!?


「何かあるでしょ?」


ないけど。これっぽちも全く微塵も1ミクロンもないけど。


眼を見開いて先生の横顔を見ていると、車の速度が落ちていく。前を見ると、赤信号だった。