世界を敵にまわしても



出された料理は綺麗に食べて、食後に出された茶菓子も絶品だった。


少し熱めの緑茶を飲んでホッと一息つくと、襖の奥から「失礼します」と低くよく通る声がする。


「高城」

「え?」


襖が開くと同時に、先生は自分の口先に人差し指を当てた。


……何それ。静かにって事?別にうるさくしないけど!


「どうも。いつもと変わらず、美味しかったです」

「ありがとう御座います」


部屋に入ってきた店主さんは先生よりいくつか年上に見えた。


30代には見えないけど、物腰の柔らかさが年齢不詳にさせる。


「先日、氷堂さまもいらっしゃいましたよ」

「あぁ……元気だった?」

「えぇ、変わらず」

「そう」


先生は店主さんと親しげに話しながら、長細い黒いものを受け取った。


それを見て思わず「あっ」と言いそうになって、慌てて言葉を飲み込む。


……あれって、お勘定じゃない?


予想通り先生は財布を取り出して、先程先生がした仕草の意味を理解した。


ちょっとちょっと待って!あ、でもダメなの?こういう場所であたしも払いますとか言ったら何かアレなの?


マナーとかの問題?先生の面目潰しちゃダメとかそういう事?分かんない!


ぐるぐる考えている内に先生は会話をしながら店主さんに1万円札を差し出した。


「さ、出ようか。お手洗いは平気?」

「……お借りします」


黙っていたあたしを褒めるように先生はニコリと笑って、あたしは店主さんにお手洗いの場所を教えてもらった。


……先生ってやっぱりズルイと思う。