店の内装はいたってシンプルで、和服を着た若い男の人が店主をやっていた。
店に入ってまず木と畳の匂いがして、カウンターは無く小さな座敷が4部屋ほど。
そのひとつに通されて、褐色の座椅子に座ると艶やかな木目のテーブルに魅入ってしまった。
興味深げに部屋を見回している内に、先生は慣れた口調であれこれと注文していく。
お品書を見たけれどよく分からなくて、先生に全部頼んでもらって正解だったらしい。
「……おいしい」
「でしょ? 隠れた名店」
注文してから30分程度。テーブルに並んだのは炊き込みご飯にお吸い物、色鮮やかなお刺身。
他にも色々あったけど、その細かい装飾に驚いた。
……和食のマナーって何だっけ。いや、会席料理じゃないしそこまで考えなくてもいいのかな。
とりあえず、1品に偏らないように順番に食べてけばいいの?まさか時計周りに食べなきゃとかじゃないよね?
チラリと先生を見ると、特に変わった様子もなく食べている。それはもう本当に普通に。
「……」
「ん? どうしたの?」
緊張してるのはあたしだけか!
心の中で突っ込んでから、あれこれ考えてた自分がアホらしくなる。首を傾げてあたしを見つめる先生がいるから、なおさら。
「……ここって店主さん1人だけでやってるの?」
「いや、夫婦で。厨房に他2名? まぁ店主が料理長みたいなものだけどね」
「ふぅん」
まさか高級店なのかと思って余計緊張しそうだったけれど、静かで趣のある店は温かさを感じて落ち着く。
こじんまりとして、従業員の少なさも相まってるからか分からないけど、隠れ家という言葉はピッタリだと思った。
あと、隠れた名店と言うのも。



