世界を敵にまわしても



「この道せま……ふっ」


あたしの顔を見て言葉を切った先生は顔を背けて、控えめに吹き出した。


「……何よ」

「いや? 何でもないよ」


顔が赤いって言いたいんでしょうね。


自分で分かってるのに突っ込まれないのも、気まずいな。


「まぁ、ぶつからなくて良かったね」

「……どうも」


可愛くない!と自分で突っ込みながら、今更ありがとうと言い直す気にもなれなかった。


それでも先生は可笑しそうに笑って、再び歩きだす。


聞こえない程度の小さな溜め息は、素直じゃない自分への呆れから。


何だってこんなにツンとしてしまうんだろう。


いや、性格だからしょうがないんだけど。そんな事言ったら、本当にどうしようもない。


またカップルと擦れ違って、あたしはその仲良さげな2人に振り返った。


何てことない、どこにでもいそうなカップル。ただ笑い合って、手を繋いで。


あたしと先生に始まりがあったように、どのカップルにも始まりがあるんだろう。


でもきっと、あたしはどの彼女よりも恋愛経験が浅い気がする。


「……先生」

「んー?」

「何でもない」

「ははっ! 何それ」



手を繋ぎたいなんて思う心が、自分にあると思わなかった。