「どこ行こうか」
無駄なものがない車の内装を見ていると、先生は前方を見ながら聞いてくる。
車の中は特に珍しい物はなくて、2つ並んだ芳香剤の青い液体が揺れるのを眺めながら考えた。
「どこでもいいよ?」
本屋しか思い浮かばないあたしって、色々大丈夫だろうか。
「……先生は?」
「俺? 高城は行きたいとこないの?」
「本屋しか浮かばない」
「あははっ! さ、さすが……!」
何がさすがなんだ。
「でも別に、そこまで行きたいわけじゃないから」
カーナビの機械音だけが響く車内では、先生の小さな笑い声でもよく聞こえる。
言うんじゃなかったなと思いながら、赤信号で止まったところで先生に視線を向けた。
「だから先生が行きたいとこでいいよ」
「ははっ! じゃあ、本屋行こう」
「は? 行くの? 別にそこまで行きたいわけじゃないって……」
「うん、でも。ちょっと見るくらいでしょ? そしたら昼飯食べる時間になるから、ちょうどいいよ」
先生は眼鏡の奥で瞳を細めて、軽く弾みを付けるように言う。
どこか楽しげなその喋り方に、あたしは黙って頷いた。
青に変わった信号の先に広がる空は、綿菓子みたいな雲を浮かばせる。
フワフワとしたそれは、まるであたしの心を表してるみたいだと思った。



