ふと思い出した今朝の夢を急いで消して、あたしは鞄を肩に掛けてもう一度先生と顔を合わせる。
「気を付けて」
「うん。……また、明日」
「ハイ、また明日」
何だ、ハイって。
その言い方が照れ隠しなのかと察して笑うと、先生も同じようにはにかんだ。
いつまでも見ていたいと思う笑顔。だけど埒が明かないから、あたしは先生に背を向ける。
準備室のドアを開けて音楽室に出ると、一瞬悩んだけれど振り向かずにドアを閉めた。
昇降口を出ると、校庭で部活動に打ち込む生徒の声があちこちから響く。
「……」
微かな期待と、少しの羞恥。
その2つを抱えたまま校舎を見上げると、やっぱり先生がベランダに出てあたしを見下ろしていた。
……あたしが見上げなかったら、どうするつもりなんだろう。
なんて、準備室を出る時振り向かなかったのは、この瞬間があると予想してたからのくせに。
いつものように何度か緩く手を振って、手すりに頬杖をつく先生。
あたしは手を振り返すわけでも会釈するわけでもなく、持っていた携帯を軽く左右に振った。
そのまま校門に向かって、携帯をブレザーのポケットにしまう。
……手を振り返すのって、何か恥ずかしいんだよね。
でも、連絡を待ってるという意味も込めた事に気付いてくれるといい。
……やっぱり気付かなくていい。
そんな事を1人でモヤモヤ考えてることに首から上が熱くなって、あたしは足早に家へと帰った。



