世界を敵にまわしても



「まだ終わってないけど」

「あれ? まだ俺とイタッ! 痛い!」


バシッと先生の背中を思い切り叩くと、「殴ることないじゃん」と全く反省していない様子。

ていうか殴ってない!


「あのね、コレ急ぎじゃないから。大丈夫」

「は? 手伝ってって言ってたよね」


人を呼び出しておいて急ぎじゃないとは、どういう了見なの。


「あぁうん、何て言うか……口実?」

「……は?」

「デートに誘う為の」

「は?」

「さっきからそればっかり!」


いや、だって、それしか言いようがないんだもん。


あたしがポカンとしてると先生は眉を寄せて、僅かに唇を尖らせながら呟く。


「いつ言おう、いつ言おうって緊張してたのに」

「……先生が緊張?」

「何その、俺は緊張とは無縁な感じ」


無縁だと思うんだけど……ていうかメールで済む事なのにわざわざ呼び出したとか……。


先生の少しムッとしてる表情に胸の奥が熱くなって、口元がほころんだ。


「……何笑ってるの」

「別に、何でもない」


口元の前で両手を合わせて、ポーカーフェィスで嬉しさをごまかす。


想いが通じ合って数日。


毎朝教室では会うけど、ゆっくり話せるのは放課後だから……あたしはどうしてもドキドキしてしまう。


でもそれは、先生も同じだったみたい。


想いが通じ合っただけで十分幸せなのに、一緒にいる時も同じように緊張して、ドキドキしてるなんて。不思議だけど、嬉しく思う。

これ以上の幸せって、あるのかな。


考えても恋愛初心者のあたしには全然想像がつかなくて、今日は大人しくあきらめることにした。


これから少しずつ、知ればいい。


「じゃあ、あたし帰るね」

「ん? うん、夜連絡する」


……なんか本当に、夢じゃないんだな。