泣いてるみたいだと思ったあの曲を弾く先生が、あんまり綺麗で。
先生の黒髪と、黒いピアノが夕日の光を吸い込んでるみたいで。
熱くなる。
内側から、ジワジワと。
「……あ」
プツリと途切れた演奏は、きっと先生が間違ったんだろう。前も先生は間抜けな音を出して、あたしにヘタクソと言わせた。
「はは。間違った」
……先生はそうやって、いつも笑ってる。
優しいんだか、意地悪なんだか。いつもあたしをからかって、何考えてるのか分かんなくて。
嫌な奴だと思った。
嫌いだと、関わりたくないと思った。
それでもあたしはここで、先生と話すうちに変わっていった。
何も変わらない、変えることが出来ないと思ってた日常を、先生が変えたんだよ。
あたしが自分の中で作った不変を、先生が勝手に狂わせたから。
「……どうして泣くの?」
眉を寄せて、唇を噛んでも涙は止まらなくて。後から後から視界が滲む。
「高城」
先生が歩み寄って来ると、あたしは片手で顔を覆って視線を落とした。
「どうして泣くの」
……だって、溢れるの。
色んな想いが、とめどなく溢れる。



