世界を敵にまわしても



「……ちゃん、おねーちゃん?」


腕に感じた振動にハッとして、問題文の羅列から隣に視線を移す。


くりくりとした丸い瞳が、心配そうにあたしを見つめていた。


「あ……ゴメン那月。えっと……どこだっけ?」


リビングで妹の勉強を見ていたはずなのに、いつ家に帰って来たのかすら記憶が曖昧だ。


「……おねーちゃん、具合わるいの?」

「や、ちょっとボーッとしちゃってた。ゴメンね」


左手でこめかみを抑えながら右手でペンを持つと、那月は後ろを振り返った。

確か、母と兄が居たはず。


「おにーちゃん! おねーちゃん具合わるそうだよーっ」

「……」

「……ほんとだ。美月、顔色悪いぞ」


キッチンの方から近付いてきた兄に顔を覗かれても、頭がぼーっとして反応が遅れてしまう。


「熱はないな。風邪か?」


兄の手が額に触れると同時に、母が席を立った音がした。


「ヤダちょっと。那月にうつさないでちょうだいね」


相変わらず那月中心の人だな……でも、こうして顔を覗かれる事なんて今まであったっけ。


……先生のおかげ、なのに……。


「もうお風呂入って寝なさい」

「……そうだな、那月の勉強は俺が見るから」

「おねーちゃん大丈……泣っ!? どっかイタイの!?」


……あぁ、ダメだ。


頭の中が、ぐちゃぐちゃ。