世界を敵にまわしても




「あたしが好きなのは先生だよ!!」



「……え?」

「は!? え、じゃなくて! 好きだって言ってん……っ」


……え?


眼鏡の奥で思い切り目を見開く先生を、あたしは凝視する。


ずっと見ても、先生の様子は変わらなくて。現状を把握したあたしの体は急激に冷える。


怒りでブクブクと沸き立っていた気がする血が、一気に引く。


言った? 今、何て言った? あたし、好きだって言わなかった?


「「……」」


消えたい!!


「あ……ち、違くて……」


違くないのに、見開かれていた先生の瞳が真っ直ぐあたしを見る瞳に変わって、何も言えなくなる。


困ってるようにも、戸惑ってるようにも見えて。嫌われるとか、フラれるとか思って、あたしは一歩後ろに下がった。


「……っごめんなさい」


あたしの意思とは関係なしに涙が浮かんで、逃げるように音楽室を飛び出した。


何に対しての謝罪だったのか、あり過ぎて解らない。


好きになって、想いを告げて、逃げて、ごめんなさい。


謝った後の先生の表情が、悲しげだった。何度も助けてくれた先生にそんな顔をさせてしまった事にも謝りたい。



「……っ」


バカ、あたしのバカ。


逃げるしか出来なかった自分が憎いし、笑える。笑うしかない。


抱き締め返されただけで浮かれてた自分。



塵ひとつ残さず、消えてしまいたい。