世界を敵にまわしても



先生は相変わらずこちらを見なくて、言葉に妙な棘がある気がした。


お互い階段を無言で上って、あたしは2階に上がった足を止める。


「……ヤキモチ?」


って言った傍から全力で後悔するあたし。


何言ってんの!あたし、何言ってんの!調子にのるな恥ずかしい!


立ち止まった先生の背中がゆっくりと見えなくなって、代わりにいつもと同じ微笑みが見えた。



「え? もう1回言って?」

ワザとだ!!


ニヤリと口の端を上げるその姿は、放課後に見せる表情のひとつで、あたしをからかってる時の先生だ。


「~っムカつく……!」

「ヤキモチ妬いてほしいの?」

「そんな事言ってない!」


何なのこの敗北感……何であたしばっかり、って。そりゃ、あたしが勝手に好きになったんだけど。


「拗ねても美人だね」

「その口を今すぐ閉じて!」


バカにしてる!からかってる!そうだ、先生ってこんな人だった!


「ははっ。いつでもおいで。お菓子用意しとくよ」


そう言って階段を上る先生の背中を、眉をキツく寄せて睨んだ。


空回りした恥ずかしさと、からかわれるだけの自分が虚しくて。


何の進展も望んでいなかったはずなのに、無性に腹が立って切なくなる。



――先生、どうしてあの時抱き締め返してくれたの?


聞きたいのに聞けなくて。
答えを聞く勇気もなくて。



どうしようもなく、泣きたい気持ちになった。