「先生」
晴とヨッシーに一言告げて、食堂を出た先生の背中に声を掛ける。
控えめな声はしっかり届いたらしく、振り向いた先生はあたしを瞳に映して微笑んだ。
「……もうご飯食べた、んですか」
「ははっ。使いたくなかったら使わなくていいよ、敬語」
「……じゃあ……そうする」
あの日の放課後から初めて話すのに、先生は前と変わらない。
何か、なかったことにされてるみたい。
「もう、放課後に時間潰さなくても大丈夫みたいだね」
「え?」
「遊ぶ友達が出来て、何より」
隣を歩く先生を見上げても、目は合わなかった。先生は前だけ見て、口の端を上げている。
……ていうか、放課後に時間潰さなくても良くなったのは、椿と居るようになる前からなんだけど。
「とっくの前から、潰さなくても大丈夫になってるよ」
先生が家に来てくれた時から、あたしの家族は変わったって分かってるんじゃないの?
それでも放課後音楽室に行ってたのは……。
うわ、何か恥ずかしい。
今更だけど並んで歩いてる事すら恥ずかしい。
「まぁ……高城が楽しいなら、いいと思うよ」
「……」
先生の言い方に、あたしは首を捻る。
何て言うか、らしくなくて。



