世界を敵にまわしても

――――…

「……ちょっと?」


次の日の昼休み、食堂でご飯を食べていたあたしと椿。


食器を下げに行って戻ってきたあたしに、椿は素知らぬ顔でパックジュースを飲んでいる。


「それはあたしの飲み物な気がするんですが」

「ズコー……ワリ、飲んじゃった」


飲んじゃった。じゃ、ないんですけど!


「後で買ってくるって。怒んな」

「いいよもう。食べ終わったし」


それよりも、チラチラと感じる視線が痛い。下級生から上級生、同級生までもが椿を物珍しそうに見ている。


「ウゼーな。見んな」

「威嚇しないで! 椿が食堂にいるの初めてだから、珍しいんだよ」

「ウチは未確認生物じゃないんですけど」


それはそうだろうけど。珍しいよりもまず外見が人目を引くからな、椿は。


そんな事を考えながら椿を見ていると、少しの雑音の後『生徒の呼び出しです』とスピーカーから教員の声が流れた。


『黒沢 椿、至急職員室まで』

「げ。この声数学の奴じゃん」

「……何したの」

「知らね。多分、提出物出してないとかその辺」


呼び出しくらう程、長いこと提出してないって凄いな。


「ダリー」と言いながら立ち上がった椿に、周りに座る人はこの人が黒沢椿だと認識したみたい。


「食器下げとく」

「おー、ありがと」


心底めんどくさそうに学食を出る椿の背中を見てから、あたしも席を立った。