世界を敵にまわしても



「……」

読めない。


おかしい……あたし、ドレミファソラシドは覚えたはずなのに。


上段と下段にト音記号とヘ音記号があるから、示す音の領域が違うのも分かる。


音符が二つ重なってるのは何だっけ。和音?


……ダメだ。


授業で習ったことはそれなりに覚えてるのに、全くメロディーが出てこない。


く、悔しい……。


素直にそう思って、手書きの楽譜と睨めっこしてしまう。だから、机に自分以外の影が落ちたことに気付かなかった。


「コラ」

「!!」


バンッ!と本を教科書ごと閉じて、声を掛けられて初めて横に人が立っている事に気付く。


しまった……。


「学年1位の秀才でも、内職するんだね」


見上げた先にはもちろん朝霧先生が立っていて、微笑むでも怒るでもなく、キョトンとした顔をしていた。


初めてこんな間近で見たと思ったけれど、今はそんな事どうでもいい。


常にトップを取り続けてきたあたしのイメージが崩れるのだけは、絶対に困る。


「すみませんでした」

「いやいや、いいよ。本当は良くないけど」

どっち。


そうは言わずに、もう一度同じように謝った。すると朝霧先生は少し考えるような素振りを見せて、あたしに微笑みを向ける。