世界を敵にまわしても



「はーっ。宮本がまた寝たら、叩き起こすように」


朝霧先生の声がしたほうを見ると、ちょうど宮本くんが起き上がって、後ろの席の男子に振り返っているところだった。


「ソッと起こせよ!?」

「結局寝るのかよ!」

「寝たら減点」

「ヒデー!」と叫ぶ宮本くんと同時に、朝霧先生が教室内を歩き始める。


ずっと机に置きっぱなしだった教科書を慌てて開こうとすると、その下に何かあることに気付いた。


……あたし、どれだけ焦ってたんだろう。


教科書の下にあったのは、昼休みに図書室で適当に借りた『パリのヴィルトゥオーゾたち』


いかにも、クラシック愛好家が読むような本。今日、返しに行こうかな……放課後の用事に出来るし。


チラリと前方を見ると、朝霧先生は教壇に戻っているところだった。とりあえず教科書を開いて、その上でパラパラ漫画を見るみたいに本をめくる。


「……?」


一瞬、規則正しく捲られていたスピードが落ちた。というより、何かが挟まっていた。


もう一度パラパラとめくり、その場所で親指に力を入れる。


丁度真ん中の50頁あたり。そこに、二つ折りにされたルーズリーフが挟まっていた。


……何コレ。楽譜……?


二つ折りのルーズリーフを開くと、五楽譜の上に音符が書かれている。


どう見ても、ボールペンで書かれた手書きの楽譜だ。