世界を敵にまわしても

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――――…


五月晴というにはピッタリな朝。肌寒さは感じなくなったものの、まだ梅雨入りもしてないのだから夏は遠く感じる。


「ふぁ……」


下駄箱前で欠伸をすると、フッと鼻に掛かった笑い声が背後から聞こえた。


「何、寝不足?」


黒いブーツシューズを下駄箱に押し込むのは椿で、今日は左右の柄が違うニーハイを履いている。


「椿は今日も私服だね」

「アレンジと言え」

「制服に青いカーディガン着る人初めて見たよ」


もはやスカートしか指定じゃない気がする。


まぁこの学校の制服はスカートとブレザーだけ指定だから、他は何でもいいんだろうけど。


「別に変じゃなくね?」


並んで廊下を歩き出すと、椿は自分の格好を見下ろしていた。


「あたし服のセンスないから分かんないけど、椿ーって感じ」

「お、いいね。ウチが求めてんの、それ」

「個性でしょ。十分あるよ」


かなり普通に話してるなと頭の隅で思っていたけど、特にそれを口にする事はなかった。


「美月も個性出せば」

「お気遣いなく」

「ははっ!」


廊下ですれ違う生徒や、背後からの視線も感じたけれど、それも特に気にしない事にする。


またミキ達に何か言われそうだな。


ぼんやりそう思いながら、既にドアが開いていた教室に入った。