世界を敵にまわしても



「なぁーんか、失恋の曲みたいだよな」


晴は楽譜を手に取って、あたしが読めなかった楽譜を口ずさむ。


――強烈だった。

音楽にはうといあたしが、鳥肌を立てる程。



「美月」

「え……あぁ。ありがとう、弾いてくれて」

「どういたしましてっ」


差し出された楽譜を受け取り、読めもしないのに見入ってしまう。


晴が弾いたこの曲は、誰が作ったんだろう。


2枚目があるとしたら、どこにあるんだろう。


「……タイトルは付いてないんだね」

「だね。まぁ付けない人もいると思うけど、日付はあったよ」

「え?」

「裏ウラ」


晴が裏返せと言うように手首を捻って、あたしは楽譜の裏を表にした。


「……半年前?」


去年の10月末……に、書き始めた?書き終わった?


「それ何の本に挟まってたの?」

「え? あ、と……確か、パリのヴィルトゥオーゾたちってタイトル」

「は!? そんな本借りたの!?」

「や……つ、机の中に。ほら、前に音楽室で朝霧先生に取り上げられた……」

「あぁ、あん時か!」


ごめんなさい本当は適当に自分で借りたんです。


そう心の中で言って、ふと疑問に思って首を捻った。


「知ってる本なの?」


椅子から腰を上げた晴に聞くと、晴は天井に向かって腕を伸ばす。