王子様のキスでも、お姫様が目を覚ますことはなかった。


現実なんだからそれはそうだけれど、1%ぐらいは目を覚ますことを期待していた。



アイチがお骨になるまでの間、あたしたちは軽食が用意された部屋で待たされた。


とても食べられるような状況じゃなかったあたしは、1人、外の空気を吸いに出た。



入口を出て少し歩くと、小さなベンチがあった。


そこに座ると、空に上って行く煙がよく見える。


それを見つめながら、これでもう2度とアイチには会えないんだと実感した。



この世に死別ほど残酷な別れはないと思う。


だってついこの前まで一緒に笑っていたのに。


触れる距離にいて、話しかければ返事だってちゃんと返ってきたのに。


もうアイチは写真やビデオの中でしか見られない。


あたしの想像の中にしかいない。



「こんなとこにいた」


声のした方を見ると、立っていたのは駆だった。


彼は優しい笑顔を浮かべると、こっちに向かって歩いてくる。


「何してんの?こんなとこで」


そう言いながら隣に座った駆に、あたしはただ黙って、空に上って行く煙を指差した。


駆はそれを見上げたまま、ただ一言言った。