「おれがあいつを許すなんてあるわけないだろ。あいつはおれたちの結婚を潰しやがったんだ。死んだって許さない」


ねぇ、待って。


だってアイチは言っていた。


「もう再婚許してもらえたって…」


「許してもらえるわけがない。だからおれはあいつを許さないんだ」


頭の中にあたしのマンションに貼られたビラが浮かんでくる。


あの時、あの強いアイチがあたしの前で泣いた。


そして、その次の日から嫌がらせは1度も起きなかった。



あの日、彼女が嫌がらせを止めるために引き換えにしたのは、3つの約束なんかじゃなく自分の命。


アイチはあたしたちの幸せを守るために命を懸けた。


「あぁあぁぁぁあぁ!」


持っていたナイフを自分の左手首にあてる。


一瞬で切ると、血がポタポタと床に落ちる。


「何をやってるんだ!何でおれを殺さない!?」


男はそこで初めて動揺を見せた。


「どうしておれを殺さないんだ。おれは殺してもいい人間だぞ」


その声が震えていた。


見ると、男の目から1筋、涙がこぼれ落ちる。


男は泣きながら言った。