すぐに誰かが反応してくれると信じていた。


けれど、ホームには丁度、電車が入ってきたばかり。


ドアの開いた電車に周りの人たちは次々に乗り込んで行ってしまう。


嘘でしょ?


「すみません!救急車呼んでください!」


そう叫ぶあたしに、車内の人たちは冷たい視線を送った。


まるで「何、いい子ぶってんの?」とでも言うように。



誰も助けてくれない。


ケータイは見つからない。


焦りで涙が出そうになった時、目が覚めた。


息が荒く乱れていた。


それを整えながら、夢でよかったと心から思う。


けれど、いつかこんな世の中がやって来てしまうんだろうか。


小さなことだけれど、大切なことが少しずつなくなってしまったこの世界には、もうそろそろ今の夢のような日が来るのかもしれない。


何だか無性にアイチに会いたくなった。


アイチならこの不安を一発で消してくれるはずだ。


昨日の帰り道のように。


とは言え、時間は午前8時。


休日の今日、アイチはまだ寝ていると思う。


あたしもまだ寝ていようかとも思ったけれど、そんな気にはならなくて起きることにした。


大丈夫。


たかが夢だ。


それ以上はもう考えないようにして、朝の支度に取り掛かった。