でも、赤鼻のトナカイじゃない。


「お前だな?!俺の曲の前に割り込み予約したのは。」


灰音が千秋の頬を引っ張る。


「いてて…僕じゃないよ!」


すると黙って座っていた燕さんが立ち上がった。


灰音の手から、自然にマイクを奪う。


唖然として燕さんを見る灰音と千秋。


燕さんは何事もなかったかのように歌い出した。






エレジーは必死で笑いを堪えている。


灰音と千秋はポカンとしたまま。


シイは初めて見る機械に興味津々であちこち触っている。


燕さんはもうサビに差し掛かっていた。






昨日までの出来事が嘘みたいだ。


楽しくて、平和な日々が戻ってきたんだ。


このまま…


こんな時間がずっと続いたらいい。









そう思っていた。


その時の私たちはまだ知らなかった。


災厄の足跡が迫っていることに。