8.アイドルは忙しい







「……。」


「………。」


「…………洋子もシイも…いいやつだったな。」


「…そうだね。」






日が暮れて、空は真っ赤に染まっていた。


昼間はあんなに賑わっていたイベント会場も、もう機材も片付け終わり、閑散としていた。


そこを通りすぎ、ホテルに戻った。


部屋に入ったとたん、疲れが押し寄せ、僕はソファーに倒れこんだ。


燕はソファーの裏で荷物の整理を始めた。


「千秋……実家には寄らなくていいのか?」


「実家ー?」


ふと広大な実家を思い出した。


僕の家はとある財閥。


父は大手企業の社長だ。


母は副社長。


二人は多忙で家にいたことなんてなかった。


小さいころから僕は無駄に広い家に1人だった。


燕や何人か使用人がいたから寂しいと思ったことはあまりなかったけど…


「実家なんて行ってもきっと誰もいないよ。それに僕、両親の顔忘れちゃった。」


「……そうか。」