「どうしたら、何をすれば解放してくれるんですか?」

「解放って……理名ちゃんあの……」

「あたしの、あたしの目で良かったらあげ……」

「やめて!」

 なにを言うの。やめて、そんなこと言わないで。そんな、そんな風に思われていたなんて、考えたことも無かった。友達に「パシリじゃんか」と言われる冗談とは訳が違う。

「……蓮も、そう言ってるの?」

 蓮も、奴隷だって思ってるの?

「お兄ちゃんは何も……」

 あたしも理名ちゃんもまた黙ってしまった。居心地も悪い。どうしよう困ったな。そう考えていると、沈黙を破って電話の着信音。
 理名ちゃんの携帯が鳴っている。折り畳みの携帯を開き、「お母さんだ」と小さい独り言。

「はい。どうしたの?」

 あたしはもう、玄関の方に意識が行っている。帰った方がいいみたいだ。蓮の居ない部屋で、まさか妹と鉢合わせて、こんな展開になるなんて思ってもみなかった。「奴隷」というワードが耳の奥でわんわんと鳴っている。

「……え?」

 理名ちゃんは携帯で話している。あたしは立ち膝になって、帰る体勢になっていた。もう帰る……電話が終わったらさようならを言おう。部屋から出よう、帰ろう。来なきゃ良かった……。

「わかったすぐ行く」と言って理名ちゃんは携帯を閉じる。それを待って、あたしは声をかけた。

「あの、あたしそろそろ。お茶ごちそうさまでした」

「ちょっと待って詩絵里さん」

 呼び止められる。ああ、脱出は不可能か。またなんか言われるのか。そう思って身構えた。

「お兄ちゃんが……交通事故で」

 理名ちゃんは顔面蒼白で口を動かした。いま、いまなんて言った? 交通事故?

「じゅ、重体……だって」
 
 最後はかき消えてよく聞こえない理名ちゃんの声。なんて言った? 

 ……うそでしょ?