隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

「今から病院行くぞ」

「えっ」

 今から? 夜じゃん。ああ、夜間もやってる所に行くのか。

「いやいや、別にいいよ大丈夫だよ。明日には治ってるって」

「言うこと聞け」

 そう言って立ち上がった蓮は怖い顔をしていた。棚にあったニット帽、脱ぎっぱなしにしてたコートを取って「ホラこれ着て」と投げてよこす。
 のろのろとコートをパジャマの上から羽織ると、ニット帽を被せられた。「保険証どこだ」とか「靴下も履いて」とか蓮はテキパキ指示を出す。だるくて素早く動けないけど。
 ちょっと待ってよ、大丈夫だよ。なんとなくパジャマの上にコート着ちゃったじゃんか。パンツも昨日のままだし、お医者さんにおっぱい見られるのにノーブラだし、何よりあたしパジャマだよーお風呂入ってないし汚いよー。
 多分、言っても聞き入れられないだろうなとか思って、言わずに観念する。
 戸締まりをして玄関を出る。ふらふらする。困ったなぁ、ずいぶん酷い。すると、前を歩く蓮が「ほら」と言って背中を向けてしゃがんだ。

「だ、大丈夫だよ。歩けるよ」

「いいから、乗れ」

 近くの総合病院まで歩いて15分くらい。蓮、あんたそんなに体力あったっけ? あたしを背負って、行くわけ? 15分歩くの? タクシーという手もあるし、ていうか蓮、バイク持ってるじゃん、と言おうとしたけど、蓮は少し慌ててるんだと思った。
 
 自分の財布とあたしの財布、保険証を入れたポーチを「これしっかり持っとけ」と持たせ(というか手首に結びつけられ)蓮はあたしをおんぶして歩き出した。

 歩く振動が、蓮の背中と肩と首から伝わる。あったかい。香水の香りの隙間に煙草の匂い。

「……ありがと、蓮」

「……おお」

「ごめんね」

 あったかい。このまま蓮の背中に埋まってしまって、ひとつになってしまいたい。だるいし、寒いしで具合はすこぶる悪いんだけど、蓮の背中は温かく心地よい。

 でも重いよね……ごめん。眠ると余計重くなると思ったので、頑張って起きていようとした。でも、熱のせいなのかおんぶの気持ちよさのせいなのか、蓮の背中であたしはガッチリ眠ってしまった。遠くで蓮が「もうすぐだからな」とか言っていたのをなんとなく覚えている。