戻ってきたあたしが住むアパートは、一戸も灯りが付いていなかった。あたし前だけど、あたしの部屋も。もうすぐ、夜明けがやってくる。

「じゃあね」

 ミナトさんは、少し疲れた表情だったけど、言葉ははっきりとしていた。今日という日は、お互いに意味のあるものだったと信じたい。暗い記憶だけが残るものにしたくなかった。

「うん、じゃあね」

 すっかり干さないままで持ってきてしまった自分の服をミナトさんから受け取る時に「いま着てるの、やるよ。返さなくていい」と言った。じゃあねの後に「またね」とは言わなかった。だからきっと、もう2人、会う事はないだろうな、と予感した。

 車にミナトさんが戻ってドアを閉め、車内から手を振ることもなく、発車させた。走り去る車をあたしは見ていた。

 蓮から離れるため、ミナトさんを利用しようとした。ミナトさんは死ぬ為に、あたしに寄りかかった。どっちも、悲しい傷のせい。舐めあって、でもそれは愛にはならなかった。

 アパートの階段をなるべく静かに上って部屋に戻った。玄関を閉めると、いつも静かな部屋が一段と静まりかえって見える。
 ミナトさんから借りた服を脱ぎ捨てる。これは、洗って乾かそう。会うことがないなら、始末をしよう。自分の生乾きの服も洗濯機に放り込む。部屋着に着替えて、携帯を取り出した。メールを作成して、送信する。寝ている時間かもしれなかったけど。

 送信先はヨウコちゃん。「ヨウコちゃん、ダメだったよ。あたし」とそれだけ。あとは入れなかった。
 腰掛けたベッドから立ち上がって、水を飲む。喉が乾いていた。

 もう寒くなってきていたから、ベッドは冬使用。この中は1人でも温かい。体が冷えてしまっていたけど、お風呂に入る気力が無い。だから、とりあえず温かくして眠ろう、もうすぐ夜明けだけど。
 あと明日、蓮にごめんって言おう。明日っていうか、今日かな。目覚めたら考えようか。

 あたしは、何も変わらなかった。また、蓮といつもの、いままでの関係に戻るだけ。
 蓮が好き。それは昨日よりも強まって。だけど、何も変わらないままなのだろう。また、明日から。