もう、何も言えない。一緒に死のうって言うミナトさんを今、止められて良かったと思うだけ。あたしは頭が悪いから、うまく説明はできない。でも、自分で死ぬことだけは……どうしても止めたかった。

「一緒に、死のう」

 ミナトさんが一緒に死にたかったのは、あたしとじゃない。生きたかったんだ、彼女と。居なくなってしまった彼女と一緒に。
 背中に、ミナトさんの指が食い込んで、痛い。コンクリートに打ち付ける波の音、背中の痛みだけが、リアル。

「……おれ」

 ミナトさんが声を出す。

「きみが、いいよって言ったら飛び込むつもりだった」

 もう、涙声ではない。泣きじゃくっていた小さな男の子は、もう居なかった。

「1人じゃ、怖かった……ごめんな」

「ミナトさん……」

 ミナトさんは涙を拭って、立ち上がる。そして、あたしの肩をさすって言う。真っ直ぐな瞳だった。

「シャワー浴びたのに、風邪ひいちゃうな」

「うん、でも大丈夫」

 ふっ、と弱く笑顔。まだ、月は強く光っていた。癒しの光みたい。風は冷たいけど、不思議と月の光は温かく感じた。

「……帰ろう」

 手を繋いで、車に戻った。エンジンをかけ、発進させる。暗い海に背を向けて。
 帰り道、ミナトさんはずっと同じ曲をかけていた。きっと、彼女との思い出の曲なんだろうな。あたしはそう感じた。高音が印象的、切なく歌う女性歌手。
 あたしの、知らないアーティスト、知らない曲だった。