「ここ、蹴って飛び込んじゃえば、すぐだよ」
コンクリートの波打ち際から。月に照らされた海へ。靴がこすれてじゃりっと音を立てる。波音に重なるその音に、鳥肌が立った。寒さからか、恐怖からなのか。
「手は、繋いでいてさ」
「ミナ……」
呼吸も荒くて、ミナトさんは明らかに様子がおかしい。正常な気持ちじゃない。死のうだなんて。
「ちょっと水は冷たいかもなぁ」
「や……」
ミナトさんの手に力が入れられる。このままじゃ、あたし。
「一緒になら、怖くないし」
やだ。連れて行かれてしまう。死にたくなんかない。死んだら……蓮に会えなくなっちゃうよ……!!
「なぁ……!」
「ミナトさん!!!」
あたしは叫んだ。冷たい風が頬に当たって、月明かりは繋いだ手を照らす。死へ足を踏み入れようとする、この繋いだ手を。
「やだよ、こんなの」
頬に乱れた生乾きの髪の毛も当たる。ミナトさんは、放っておけばそのまま飛び込んでしまいそうだった。そんなこと、させない。
「あたしは、死なない」
ミナトさんは、暗い表情のまま、こちらを向く。青白い顔。どのくらいの苦痛を抱えているんだろうか。あたしには想像もできない。でも、一緒には行けないよ。
「あたし、一緒になんて、行かないよ」
一言ずつ、ゆっくり伝えた。このまま飛び込ませるものか。ごめんミナトさん。その願いは叶えられない。
「なん……」
だからって、勝手に1人で行けなんて無神経なことは言わない。だめだよ死ぬなんて! あたしは生きて、蓮と一緒に……。



