隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

「俺、昔ね」

 波の音に混じって、ミナトさんが静かに話し出した。風が冷たいけれど、もう雨は降らないだろう。月がとてもクリアに見えているから。

「好きな子が、居たんだ」

「うん」

「死んだけど」

 あまりにあっさり言うので、あたしは息を呑む。「え?」という口の形だけ。声が出なかった。

「事故ってさぁ。顔に傷が出来ちゃって」

 顔に傷。死んだ? ミナトさん、彼女だったんだろう。その子が亡くなってるの……? とんでもない告白。

「凄かったんだよ。肉とか削げちゃってて」

 ……顔の傷、辛いだろ……。あの言葉、これだったんだ。あの時のミナトさんは、悲しそうで、そして虚ろな目をしていた。たぶん、その彼女のことを思っていて、言ったんだ。

「……自殺したんだ。俺に黙って、逝きやがった」

「……ミナトさん」

 言わせてしまった、と思った。ミナトさんの、辛い過去だ。それを言わせてしまったのも、あたしのせい。

「俺、救ってやれなかったんだ。あいつの事」

 風は相変わらず冷たい。
 ジャンパーも貸してくれたけど、厚着をしていても、シャワーで温めた体は冷えてきた。

「すごく、す……好きだったのに」

 震える声は、寒さからか、泣いてるのか。あたしも、寒くて歯がカチカチと鳴った。