わたしは片目だ。

 顔の右側にキスをされると顔が見えないから、わたしは好きじゃなかった。 

 蓮(れん)は、まるで祈りでも捧げるように、わたしの右瞼に唇を寄せる。
 やめて欲しかった。そんなことをしたって、わたしの右目は見えるようにはならないのだから。

 わたし達の関係は普通じゃない。暗く悲しい過去の上に成り立つ、不安定で不安な楽園。

 蓮がわたしに対して思っているのは、恋心でも愛情でもなく、罪滅ぼし。わたしはあなたの、手枷足枷。飛べなくしてるいのは、わたし。

 クラクラする、目眩(めまい)がする。

 小振りの水槽に、蓮が買って来てくれた金魚が泳いでいる。真っ赤な金魚。泣いているみたいな赤。

 蓮の唇は温かいのに、わたしのそれには届かない。

 赤い金魚は、こっちを見ている。ユラユラ、真っ赤にユラユラと。わたしが蓮(れん)に触れられて、真っ赤だからか。