隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

 蓮は。蓮の顔は。
 顔が見られなくて、あたしは突然席を立った。
 あまりの勢いに椅子が倒れたけど、まわりの人達もあたし達を見ていたけど、関係なかった。

「おい、しー」

 蓮が小さく呼んだ。

 乱暴にバックを取ると、文字通り吹き出してきた涙を見られたくなくて、全力でその場から逃げた。またか、また泣くのか。思いを言わないで。

 カフェから出た途端、風が冷たくて驚く。ああもう。もっと厚着してくれば良かった。大通りに面していたから、車がたくさん走ってて、なんだか心がソワソワする。

 すれ違う人達が、みんなあたしを蔑んでいるように思う。お前なにやってんだ。

 普通の人間じゃないくせに。

 普通じゃないくせに。

 右側に人が居たけど見えなくて、ぶつかってしまった。いかにも、仕事できますアタシ、っていうキャリアウーマン風の人だった。

「すみません」

 謝ったけれど、その女の人は「なんだこいつ」と言っていた。言葉じゃなく目が。
 よく見えているんだろう、大きな左右の目だ。アイシャドーとマスカラで飾ってある左右の目。

「すみません。あたし、目が悪いんです」

 頭も、悪いんです。