隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

「……」

 病室は、相変わらず静かだ。静かで、まるで水の中みたい。

「……」

 小さかったけれど、忘れるはずのない声をあたしは聞き逃さない。金魚が跳ねる水音よりも小さな、その音。あたしは、猛スピードで振り返る。

 ちょっと眩しそうな顔が、こっちを見ている。
 窓際に立っていたあたしはたぶん、彼には逆光で見えなかったんだろうな。

 こんなにたくさん、いろんなことに感謝の気持ちが溢れたのは初めての感覚だった。胸が痛くて涙が溢れる。視界がぼやけて、全部が混ざったように見えた。

「……」

 ちゃんと出るかの確認のように、蓮がちっちゃい声でもう一度、喉から音を出す。

 それは、あたしの名前だった。

「大丈夫、ちゃんと聞こえてる」

 あたしの声には涙が混じっていて、きっと湿っていただろう。

「し、え、り……」

 こんなに愛おしい声が、あたしの名前を呼んでいる。あたしを見ている。幸せって、こういうことなんだ。愛するってこういうことか。
 こういう、ことなんだ。あたしは、分かった。