隻眼金魚~きみがくれた祈りのキス~

「……だ、なぁ」

 ドアを開けようとした時、小さく、話し声が聞こえてきた。タケさんの声。喋ってるけど、誰か来てるのかな?
 こっそり、音をたてないようにドアを開ける。そっと覗いてみた。誰か居るのかと思ったけど、タケさんと蓮以外は誰も居ない。
 ここは個室で、入口からちょっと離れてベッドがある。蓮は入口ドアへ足を向けて寝ていて、ここから顔が見える。寝顔が。タケさんはパイプ椅子に座って、横顔が見えた。
 ベッドスペースの隣には、小さいテーブルと、向かい合って椅子が置いてある。

「もう少しだろ、がんばれよ」

 タケさんが、寝ている蓮に話しかけていたんだ。話しかけながらタケさんは、首に貼ってあるガーゼをそっと触り、蓮のおでこに手をやった。

「みんな、待ってんぞ」

 自分の鼻のあたりも触ってる。……タケさん、泣いてるな。

「俺も、待ってんだぞ。お前のボトル、飲んじまうぞ」

 また指で目を拭ってる。けっこう泣き虫なんだな、タケさん。このまま覗いてるのも悪趣味だと思ったから、そっとドアを閉め、あたしは踵を返してエレベーターへと向かった。「目覚めなかったらぶっ飛ばすかんな」とか聞こえてきたけどね。