――陸side――

始まりは、5月の終わり頃。

確か、金曜日だったと思う。

そうだ。

杏が、朝比奈に誘われてバイト先のカラス天狗に、初めてメシを食いに行った日のことだった。


一日のすべての講義が終わり、俺はまわりの女たちに毎度のごとく遊びに誘われていると。

大学内の事務のおばさんから、呼び出されたんだ。

なんでも、俺に客が来ているということらしくて。

大学内の応接室へおばさんに案内され、俺は中へ入った。


そこにいたのは、30代後半くらいのカジュアルなジャケットを着た男ふたり組。

最初、俺の仕事の相手かとも思った。

でも、取引をこんな場所では行わないだろうし……第一、そのふたり組の顔を見たこともなかった。


ソファーに座るように言われ、おばさんがお茶を淹れてくれた。

すると、ふたり組から名刺を渡されたんだ。


そこに書かれていたのは、≪クイズバトル プロデューサー≫というもの。

ふたり組は、TV局関係の人間であることを知った。

無精ひげを生やした男が、少し笑って、俺に問いかける。

「滝本陸くんだよね、君、クイズバトルという番組を知っているかな?」


≪クイズバトル≫

普段、ほとんどテレビを見ない俺でさえ知っているクイズ番組だ。

出演者、問題などが、すべて打ち合わせなしで収録される。

番組の収録がスタートするまで、誰が出演するかは、知らされないらしい。

そして、出題される問題も打ち合わせなしのガチンコ。

ヤラセなどが一切なく、おまけに問題を間違えると……本人が嫌いなもので罰ゲームつき。

その番組には、毎回旬なゲストが出ており、話題を集めていた。


「何度か、拝見させてもらっています」

そう返して、ふと疑問が起こった。

なんで、そんな人気番組のスタッフが俺を訪ねて来るんだよ。


そう考えていた時に、彼らは言ってくる。


「滝本くん、君は去年の全国高校生クイズ大会で、史上初の全問正解で優勝したペアのひとりだよね?」