しずしずと顔を上げる。立派な家屋が目に入ったあと、『水島』と掘られた表札を見つけ、顔を背けてしまった。


ほ、本当に来ちゃったんだ……ここ、水島くんの家なんだ……。


「おい万代、行くぞ。叶は正座して待ってろ」

「俺はもうひと眠りするんで、ごゆっくり」


バクバクと鳴り止まない心臓を押さえ、車から降りる。


……会える。本当に、また、会えるんだ。


家を囲う外壁はなく、代わりに広々とした庭に大きな樹が植えられている。直接道に面しているせいか、石畳が案内する玄関までは思いのほか近い。


わたしはただ突っ立って、寝静まっている水島くんの家を見上げていた。


……瞬と再会する前もこんな感じだったな。


少しも実感が湧かないから、こんなに緊張するのかも。


「瞬……今、早朝6時過ぎくらい?に訪問って、非常識じゃないでしょうか」

「田舎もんは早起きだからいいんじゃねえの」

「それ偏見だし勘違いだと思……、え?」


ぱっ、と。2階の一室に明かりがともった。

どくん、と胸が高鳴る。


「起きたな」


……誰が? おじさん? おばさん? お兄さん?


水島くんな気がする。急いで階段を下りる音がするもん。


緊張が最高潮で、苦しいほど締め付けられる胸を、服の上からぎゅうっと握った。


『いつか、また!』


大好きな笑顔で言ってくれた日が、今日になるんだ。待っていた。この日をずっと。会える日を楽しみにしていた。


戸口の向こう、たぶん廊下の電気がついたとき、わたしは目を伏せた。