二の句が継げないわたしに、瞬は大きなため息をついた。


黙って見つめられると居心地が悪い。



きっと今、瞬は色んなことを考えている。


瞬が怒るとわかっているのに、わたしが勉強会に来た理由。みくるちゃんが瞬に教えなかった理由。


それから今日は水島くんも来ることと、このままわたしが勉強会に参加したら、どうなるのかも。


あらゆる可能性を考えたあと、瞬は言う。


「帰れ万代」

「……絶対言うと思った」

「みくるに申し訳ないってんなら、俺が追い返したってちゃんと言っといてやる」

「……」

「嫌か? そんなに勉強してえなら、みくる連れて3人で俺んち行ってもいいぞ」


だめだ。今日の瞬はわたしを試している。遠回しに、質問をしている。


どうしてここまで……。そう思わないわけじゃないのに、反論はできても完全に逆らえる気がしない。


落としていた視線を上げることができずにいると、また瞬はため息をついた。


「万代。お前はもっと自分が――…」


突然、背後から手首を掴まれる。驚いて見向けば、覚えのある黒髪が日に当たって艶めいていた。


何度も見た後ろ姿。見間違えるはずがないのに信じられなくて、目を見張るわたしは引かれるがままに歩いた。


「てめっ……京!! その手を離せ!」


瞬の声に水島くんは振り返る。けれどその瞳はわたしに向けられる。


「おはよう、万代」


今にもとろけそうな水島くんの笑顔に、胸の奥がなにかを押し出すようにせまくなった。