「ねえ。まだつかないの?」


後部座席から気だるそうに訊いてきたのは、島崎さんちの叶くんだ。


「起きたんだね。おはよう」

「きみらに起こされたんだよ。ていうか外暗すぎ。なんなのここ。俺は国内旅行をしに来たはずだけど」

「黙れよ荷物。お前は高1に作った借りを返すためだけに、わざわざ連れてきてやったんだよ」

「そうだよ。シノは旅行に来たんじゃないんだから、馬車馬のように働くべきだよ」

「万代も言うようになったよね」


だてにシノを相手にし続けたわけじゃないもの。


「あとどれくらいで着く?」

「知らね。20分くらいじゃねえの」


思いのほか短かった。てっきりあと1時間くらいかかるのかと思っていた。


「そういやさっき、高校っぽいの見かけたわ」

「ほんと? じゃあこの道、水島くんも走ってたかもね」

「スクーターでな。あー。ふたり乗りしても怒られねえんだろうな……クソ、田舎いいな」


羨む箇所そこなんだ?


でも……うん、いいね。高層ビルも密集した建物もない、自然に囲まれた道をスクーターで走るのは気持ちよさそう。


人も車も通るであろう田んぼ道。ふたり乗りの男女が楽しげに笑いながら通り抜ける景色には、青空が似合う。



「ちょっと休憩すんぞ」


まだ着くには早いらしく、瞬の提案で10分ほど走ってから路肩に駐車した。


「あー何時間停めても切符きられねえんだろうな……」


そんなことばかり言う瞬を置いて、助手席から降りる。


3月末の肌寒い風が、長時間座っていた体には新鮮だった。