やめてよ……。もういいよ。

水島くん、昨日もわたしに『ありがとう』って言ってくれたじゃない。わたしのこと、『絶対に忘れない』って言ってくれたでしょう?


「夏休みの登校日、みんな帰った夕方の教室で、初めて万代と話した。……あれは、俺のこれからの人生も含めて、最高の出会いだって言えるけん」


目の縁が熱くなってきて、唇を噛みしめた。だけど募りに募った愛しさはどうしようもなくて。


ぎゅ、と背中に回された腕の力強さに、わたしの両手は自然と上がっていた。


「万代に出会えたことは、俺の一生の宝物」


力いっぱい水島くんを抱き締める。


離れたくない……離れたくなかった。ずっとそばに、いさせてほしかった。


たったそれだけの気持ちが、わたしを動かした。


シワができるほど水島くんの服を握って、息苦しくなるほど水島くんの胸に顔を押しつけて。今だけは、わたしが誰より水島くんのそばにいることを、確かめるように。


「今まで、ありがとう」


ひと際強く抱き締められて、小さく深呼吸をした。


「うん……。信じてるよ。水島くんの言葉も、誓いも……ずっと、信じてる」


だからもう行って。

旅立つきみへ伝えたいことは、これ以上ない。


「いってらっしゃい、水島くん」


にこりと微笑んだわたしに返ってきたおだやかな笑みが、視界から消える。


開けられた車のドアが閉まる。エンジンがかかる。窓が機械的に開く音がして――…。


「「京っ!!」」


遠くから見送るだけにすると言っていたハカセとみくるちゃんの大声が、水島くんの顔を助手席の窓から出させた。


ふたりとも別れの言葉はなかった。ただ大きく、力強く、頭上に上げた手を振っていた。