渡したかったものは渡せた。訊きたかったことも、話したかったことも、昨夜のうちにできた。


わたしが思い返せる水島くんとの日々は、ここで最後。登校したって、週末になったって、会えなくなる。


今日で、おしまい。


目の前にいる水島くんをしっかりと見つめ、まばたき3回に合わせて徐々に視線を落とした。


……大丈夫。迷うことなくわたしは、ここに立っている。


「万代」

「うん?」


あ、いつもと逆になった。おもしろく思ったわたしと同じように、水島くんも戯れの光を目元にとぼした。


「誓うけん」

「……、なにを? 誰に?」

「自分に誓う。これを、気休めなんかにせんためにも」


水島くんはピアスが入った箱へ、そっと手を乗せた。


「万代が支えてくれた俺の夢を、必ず叶えてみせる」


夕暮れに染まる辺りの景色が、屋上を思い起こさせる。


ただあの日と違うのは、自分じゃどうにもできないと泣いていた水島くんが、必ず叶えてみせると、男の子の顔をしていること。


……ピアスをあげた理由を、わかってくれているんだね。


「わたしも、願ってます」


箱に添えられた水島くんの手を、両手で包み込む。


やっぱりあたたかくて。少し、恥ずかしくて。目を伏せるわたしは次の瞬間、水島くんに抱き締められた。


突然のことに息が止まるかと思った。


頬に触れる柔らかな髪や、体に掛かった水島くんの重みが心臓をどくどくいわせて。


「万代はいつも、俺の背中を押してくれる」


真っ白になっていた頭に、彼の声はすんなり入ってきた。