「あれ、帰ってたんだ。おかえり」

「うん。ただいま」


自室で仕事をしていたんだろう。リビングにやってきたお母さんは、キッチンに立っているわたしの手元をのぞく。


「お母さんもなにか飲む?」

「んー……ウーロン茶。氷いっぱいで」


言われた通りに準備すると、お母さんは椅子に座りながらじっと見つめてくる。


「はい。……どうしたの?」

「べつに。ありがと」


グラスを口に持っていくお母さんは目を逸らし、


「やっぱ訊くわ」


と、向かい側に座ったわたしへ濃い眼差しを注いだ。


「どうしたわけ、その腫れぼったい目は」

「えっ!?」


まだ腫れてる!? 思わずまぶたに触れる。腫れているような、そうでもないような。


あの瞬が絶句して『いや、いいわ……』と文句ひとつ言わず自分のクラスへ戻ったくらいには、ひどかったけども。


お母さんは訊いてこないだろうと思っていたから、余計にびっくりしちゃった。


「えっと、これは……へへ」

「話したくないならいいけど」

「あ、ううん……そういうわけじゃ、ないんだけど、」

「なによ。瞬が引っ越すから泣いたの? 関城さん、お父さんのほうね。この前の朝、偶然会ったときに聞いた」


そっか……また改めてあいさつとかしに来るのかな。


「……瞬だけじゃ、ないんだ」



水島くんも引っ越すこと。彼がわたしの好きな人であること。片思いで、彼には好きな人がいて、告白する気になれないことを話した。


お母さんにそんな話をするのは初めてだった。